三好徹の「蔡琰」に泣いた

僕が何故おじいちゃん先生
「三好徹」を勧めるのか?
僕は
三好徹
という小説家の本をよく読んでいた時がありました。
この著者は、
御年89歳。
(2020年6/7現在)
おじいちゃんなので、
僕はおじいちゃん先生と呼んでいます。
ウィキペディアで見た限りでは、2014年を最後に作品を出していないようです。
83歳まで現役小説家って、凄くないですか?
おじいちゃん先生は、前回紹介した
古川市兵衛について書かれた
『政商伝』の著者です。
僕とおじいちゃん先生との最初の出会いは、目当ての本がなくて偶然見つけたのでした。
ちょうど三国志の本を探していて、同じ本棚に別の三国志関係の本があったので、手に取ってみました。
それが、こちら。
『三国志傑物伝(三好徹)』
この本には、三国志の登場人物とエピソードが書いてありました。
そんな1人に、
蔡琰
という女性が出て来ました。
三国志の中で、女性が出て来る事は珍しいですが、僕はまったく知らない人物でした。
しかし、読み進む内に、いつしか涙が出て来ました。
この蔡琰という人物、
運命に翻弄されてばかりです。
三国志を少しでも聴きかじった方は董卓の下に
蔡邕という学者がいたのを覚えているでしょう。
その学者の娘が蔡琰です。
この人は『才女の誉れ高く、博学かつ弁術に巧みで音律に通じ、数奇な運命を辿った。』とウィキペディアにあります。
まず酷いのが、匈奴の騎馬兵に拉致され、南匈奴の劉豹に側室とされます。

外国に連れ去られて側室にされたんです。
ちなみに、お父さんの蔡邕は、董卓に味方していたために、董卓の反対勢力に捕まって殺されています。
彼は、殺される前に、相手に自分の願いを伝えました。
何とか歴史書をこの世に残してから死にたい、と。
周囲の人間からは嘆息が漏れました。
蔡邕ならば、それが出来るに違いないと、誰もが学者としてのお父さんを認めていたのでしょう。
ところが反対勢力の人物は、このお父さんに歴史書を書く事を許さず殺してしまいます。
一方、拉致された蔡邕の娘は2人の子を産み、何とか生きていました。

連れ去られてから12〜13年が経ったある日、曹操が匈奴にいた蔡琰を中国へ連れて帰る算段をつけに来ました。
曹操は蔡邕と親睦があったようで、蔡邕の家系が絶える前に娘に跡を継がせようと考えたのです。

曹操
しかし、蔡琰の子どもたちは、南匈奴の劉豹の子どもでもあります。
一緒に中国へ連れて行けません。
子どもから
「どうして母さまは、私を置いて行ってしまわれるのですか?」
と言われた蔡琰は言葉に詰まります。


また、蔡琰は中国に帰れても、一緒に付き従って来た中国人の女性、友達みたいな存在でしょうけど、
彼女達も中国へ帰れませんでした。

こうした体験が『悲憤詩』という詩になって後世に残りました。

ここで、もう僕は
詩を読んでいて泣けて来ました。
こんな事があっていいのか…。

三国志というのは、古代の中国で三つの国が戦う物語ですが、2種類あるんです。
史実として記録されている話と、史実を元に書いたフィクションと。
この悲憤詩は、
紛れもなく現実に起こった事だというのがやり切れません。
もともと蔡琰は嫁いだ先の夫が早世して、実家に帰っていました。
今や、
彼女には夫も子どもも、父も、友もなくなりました。
帰国後は、曹操の配慮で同郷出身の屯田都尉の董祀に嫁いだそうです。
しかし蔡琰の悲劇は終わりませんでした。
その董祀が法を犯したために、
死罪になると彼女は聞かされました。
そこへ曹操がお客さんを連れて通りかかりました。
曹操は客に、こちらが学者で名高い蔡邕先生の娘だと紹介しようとしますが、蔡琰の態度が常と違います。

「(旦那の)命を助けて下さい!」
しかし、曹操の答えは無情でした。
「すでに決定事項だ」
蔡琰はもう髪を振り乱して、曹操に向かって叫びました。
「王はたくさんの将軍を従え、その乗馬は万を数え、虎の如き兵は林のようにいます。だのに今、その1頭を出し惜しむのか!」
細かいニュアンスは違うかもしれませんが、蔡琰がブチ切れて曹操に放った言葉は、
そのまま詩の形式に則っていました。
曹操も詩人として詩も文章も書いていますが、蔡琰の才能に感心したのか、彼女の夫を許します。
後に曹操の要求で失われた父の蔵書400編余りを蔡琰が筆書した際、
誤字脱字は一字もなかったそうです。

蔡琰が夫を殺されそうになったのは、生涯に4度結婚した内の3度目の夫でしたが、ほどなくこの夫も病死しました。
僕は、この蔡琰のエピソードを始め、
おじいちゃん先生の感受性、書き方が好きです。
とても味があると思います。

蔡琰という人物については、他の小説家も書いています。

例えば直木賞作家の宮城谷昌光さん。
(ちなみに
おじいちゃん先生も、
直木賞作家です。)
けれど、おじいちゃん先生の書くものが1番僕にはシックリ来ました。
ホント、泣かせる。
僕は一気におじいちゃん先生のファンになりました。

興味があれば、ぜひ1度読んでみる事を勧めます。
三国志に興味ないと、つまらないかもですが…。
記事を書いていて感じたのは、中国人にとって蔡琰はよく知られた存在のようです。
三国志のドラマにも出て来るみたいで、たくさんの中国語の記事を見かけました。
また京劇でもあるみたいですね。

そしてゲームの「新・三國無双7〜8」に、蔡琰(名前は蔡文姫)が出て来るみたいなのですが、刃物を振り回す役柄なんですね…(愕然)

今回は、ここまでです。
良ければどうぞ。
ありがとうございました。
(^^ゞ

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